PLUP > aBUTTON > aBUTTON / Vol.1 > aBUTTON 創刊! 文学と少女、新鋭女優が演じたものは?

Line

twitter

category

キャスト関連情報

Array
(
    [0] => 17
    [1] => 19
)
,17,19

aBUTTON 創刊! 文学と少女、新鋭女優が演じたものは?

2011/08/31

『aBUTTON』創刊号のキャスト、橋本愛さん、高田里穂さん、岡野真也さんは、それぞれ別々の夏目漱石の小説を手にしています。写真集ではその小説がどんな意味を持っているのかあえて説明していませんが、ここでは『aBUTTON』創刊号をより楽しむためのヒントをメモしておきましょう。

 

○橋本愛×夏目漱石『虞美人草』

 

『虞美人草』は夏目漱石の初の本格的な長編連載小説でした。登場人物は傲慢で虚栄心の強い才女・藤尾と、その暗黙の許婚である宗近一。宗近の友人である秀才の小野清三と、小野の恩師の娘である古風でもの静かな小夜子。藤尾と宗近、小野と小夜子のそれぞれ許婚といえるカップルですが、藤尾と小野が惹かれあうところから、ある悲劇につながっていきます(さらに藤尾の腹違いの兄である甲野と、宗近の妹の糸子もいますが、細かくは小説で)。

 

ぷんとしたクレオパトラの臭は、しだいに鼻の奥から逃げて行く。二千年の昔から不意に呼び出された影の、恋々と遠のく後を追うて、小野さんの心は杳窕(ようちょう)の境に誘われて、二千年のかなたに引き寄せらるる。

「そよと吹く風の恋や、涙の恋や、嘆息の恋じゃありません。暴風雨(あらし)の恋、暦にも録っていない大暴雨(おおあらし)の恋。九寸五分の恋です」と小野さんが云う。

 

我の弱い小野を思うままにしようとする我の強い藤尾と、小野と長く連れ添いながらも縮こまっている我の弱い小夜子。橋本さんが『虞美人草』を読んでいる場面は、最初のバス停と、制服姿から白いワンピースに着替える分岐点です。小夜子のような気持ちで読んでいて、藤尾のように変わろうとしたのか、それとも打算の渦巻く大人の恋愛模様なんて自分は関係ないと思ったのか。心の動きと着替えがどのようにリンクしているのか、小説を読んだあとにもう一度『aBUTTON』をめくると、写真の見方が変わってしまうかもしれません。

 

○高田里穂×夏目漱石『こころ』

 

『こころ』は夏目漱石の代表作といわれる長編小説です。親友と同じ女性を好きになり、最終的に友情より恋愛を取った“先生”は、その親友が自殺したことで罪悪感に苛まれ、やがて同じく死を選んでしまう。その遺書を受け取った“私”が語り手となって物語は進みます。明治天皇の崩御、乃木希典の自殺という時勢と絡めて、明治の精神を表現しました。

 

「君は恋をした事がありますか」
私はないと答えた。
「恋をしたくはありませんか」
私は答えなかった。
「したくない事はないでしょう」
「ええ」
「君は今あの男と女を見て、冷評しましたね。あの冷評のうちには君が恋を求めながら相手を得られないという不快の声が交っていましょう」

 

『aBUTTON』の中で、高田さんはこの一節について「“先生”の言葉が自分に言われているようでドキッとしたんです」と語っています。しかしこのあとに続く「しかし君、恋は罪悪ですよ。解っていますか」という先生の言葉については「そこはまだ理解できないですね」「恋は楽しむものだから」とも。

 

高校生が小中学校の校舎にこっそり忍び込んで少しドキドキしているような雰囲気が『aBUTTON』の高田さんからは見え隠れします。ただ、本来の自分の居場所でない学校に、友達とでなく一人で忍び込んでいるところに何かドラマがあると考えてみたらどうでしょう。夏が終る前に、変化が訪れる前に、楽しかった場所を確認しにきた……これから何かが訪れる予感が見えてきませんか?

 

○岡野真也×夏目漱石『三四郎』

 

夏目漱石『三四郎』は、熊本から上京してきて、東京の大学に通う青年・小川三四郎を中心とした青春小説。見るものすべてが新鮮な三四郎が思いを寄せるのは、自由で自立した都会の女性・里見美禰子。美禰子は三四郎の気持ちを知ってか知らずか、思わせぶりな行動を取ることで奥手の三四郎を悩ませます。美禰子がどんな女性か、少しだけ場面を抜き出してみましょう。

 

「迷子」
女は三四郎を見たままでこの一言を繰り返した。三四郎は答えなかった。
「迷子の英訳を知っていらしって」
三四郎は知るとも、知らぬとも言いえぬほどに、この問を予期していなかった。
「教えてあげましょうか」
「ええ」
「迷える子(ストレイ・シープ)──わかって?」

 

この「stray sheep(迷羊)」という言葉は、友情・恋愛・将来の悩みが交錯する青春の只中にいる三四郎の心に最後まで引っかかりを残しますが、ここより先はぜひ実際の小説で。

 

天真爛漫と言うよりも自由奔放な、三四郎を困惑させる美禰子と、都会の女性にすべてを見抜かれているような感情を持つ三四郎。『三四郎』を読んだ後、真っ白なシャツに着替えて一度は外に出かけようとしながら、鏡の前に戻った『aBUTTON』の中の岡野さんは、どちらに感情移入して読んだのでしょう。それともどちらの姿もまだ遠くに感じていたでしょうか。少なくとも『aBUTTON』の読者の皆さんは、岡野さんの視線に翻弄される三四郎側かもしれません……。

 

というわけで今回は『aBUTTON』に登場する小説を紹介しました。いずれも名作と名高い作品ばかりなので、皆さんも読んでみてくださいね。

relatedarticle